とけていく…
 同情するなよ。
 そんな目で見るなよ。
 俺と正樹が日替わりに弾いたって比較されて、惨めになるだけじゃねぇか。



 昨日のことを思い出し、また胸がえぐられるような痛みが彼を襲った。

(あぁ、本当に弾かなきゃよかった)

 喉が乾き、彼は麦茶を取り出そうと、冷蔵庫の扉を開く。しかし、昨日最後に飲んだ時に寝ぼけていたのか空のボトルが入っているだけで、できている麦茶は見当たらなかった。

(あれ、無いのか。作らなきゃ)

 戸棚を開け、ストックの麦茶のパックに手を伸ばすが、パックの入っている
タッパーは、空っぽだった。

 彼は大きく深いため息をついた。深すぎるそのため息が宙に散った時、渋々と買い物に出る準備を始めた。

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