とけていく…
「涼、こっち」

 手を挙げながら、紫は彼の背中に向かって駆け出した。涼は軽く息を弾ませ、声の方へと振り返った。

「ごめん、急に呼び出したりして…」

 決まり悪そうに謝る紫に、涼は首を横に振ってはいたが、困惑していた。

「急ぎって何?」

「…急ぎじゃない。ただ、会いたかっただけなの」

「え?」

 益々意味がわからない、といった表情を涼が紫に向けると、紫はそんな彼の手を引いて、歩き出した。

「紫。悪いんだけど、俺さ、やらなきゃいけないことがあって…」

 無言のまま、ただ手を引いて一歩前を歩く彼女に、涼は言った。しかし、彼女は足を止めることはなく、賑やかな駅前を通り過ぎようとしていた。

「どこまで行くんだよ…?」

 つぶやきながら、彼の小さなため息が宙に舞った。紫に従って歩き出してから数分後、線路沿いを歩いていると、公園にたどり着いた。

 園内にはもう遊んでいる子ども達はいなかった。チカチカする街灯は薄く遊具を照らしており、その光景はとても寂しそうに見えた。紫はそのまま、低いブランコに腰掛け、軽く地面を蹴っていた。涼は、そんな彼女の顔が見えるように、隣のブランコではなく、ブランコを囲っている鉄柵の上に腰掛けた。

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