とけていく…
「ピアノ、また弾くの…」

 つぶやくようにそう口にした彼女は、「そっか」とこぼしながら寂しそうに笑っていた。涼はそんな彼女の言葉を理解できず、眉をひそめた。

「涼がピアノやってると、そっちばっかで、あたしは眼中になくなっちゃうんだもんな…」

 ふーっとわざとらしいため息を吐いた後、紫はブランコから降り、短い制服のスカートについた砂埃を手で払った。

「またタイミング逃しちゃったみたい。残念」

「は?」

 涼の横に並び、ニコッと笑う紫の瞳は、薄く照らされた街灯の光でもわかるくらい、揺れていた。

「ちょっ、何で泣くんだよ」

「涼のせいに決まってるでしょ」

 彼女の頬になん筋もの涙が伝っていった。涼は慌ててポケットティッシュをカバンのポケットから取り出して、紫に差し出した。彼女はそれを受け取ると
、涙と鼻を拭いた。

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