とけていく…
「なんで俺のせ…」

 彼がそう口にした時だった。それは一瞬のことだった。彼の言葉を遮るようにして、紫は彼の胸元のシャツをぎゅっと掴むと、唇にキスしていたのだ。

 唇が離れた時、涼は目を見開いたまま固まっていた。理解不能に陥り、思考が停止する。頭の中が真っ白になっていった。

「…涼は鈍感すぎるよ。あたしはずっと好きなのに」

 紫は掴んでいたシャツを離し、彼を残して走り出していた。涼は、追いかけることなどできず、ただその場で立ち尽くしていた。

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