とけていく…
 しかし、その一瞬の隙を真紀が逃すはずはなかった。彼女は、すっと立ち上がると、彼の背中の真ん中を平手打ちしたのだ。辺りに大きな『バッシーン』という音が鳴り響いた。涼は海老反りしながら悶え、視界が狭くなっていく中、彼女の顔を見た。そこには、意地悪く微笑む真紀がいた。

(やっぱり…)

「ほら、涼、遅刻するよ!」

 満足したのか、スッキリした顔をした真紀は再び彼の自転車の荷台に乗って、彼をサドルに促していた。

「人を殴っといて、乗せてもらおうとか、図々しいのもほどがあるわっ」

「姉ちゃんに口応えするな!」

 もはや、周りの視線など関係なく二人は激しく言い合いを始めていた。時間は刻々と過ぎているのだが…

< 72 / 213 >

この作品をシェア

pagetop