とけていく…
(何考えてるんだよ…)

 トイレに映る自分の背中をちらりと見ていた。背中に、さっきの温もりがまだ残っているような気がしてならなかったのだ。

 結局、何を言っても平然と言い返して来る真紀に根負けした涼は、時間の無
駄を悟り、真紀を乗せて学校に来たのだった。

 もっと早く悟っていれば、遅刻もせず、そしてこんな複雑な思いもせずにいられるのに…

 彼は用を足した後、手を洗いながらそう思っていた。

 あの時、自転車の荷台に乗った真紀は、彼の背中にそっと頭を預けて一言だけ言葉を発した。

「本当に、ありがとね…」

 その声が、彼の耳から離れなかった。いつになくしおらしく、あんな風に話す真紀を想像できないほどだった。

(今日、行こうと思ってたのに…)

 彼は、真紀に会うのがなんだか恥ずかしくなっていた。

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