とけていく…
 彼が行ってみると、正門には人集りができていた。不審に思いながら自転車を傍に止めると、それをかき分けた。やっとの思いで中心に到達すると、そこにはセーラー服を着た紫が、困ったように立っていたのだ。

「お前、何やってんだよ!」

 涼は眉間にしわを寄せながら紫の手首を掴むと、目の前の人垣を無理やり進む。そして止めておいた自転車の荷台に乗るように促すと、逃げるようにその場から立ち去った。その時、彼らを囃し立てる声が幾つも聞こえてきたが、彼はすべてを無視した。

 しばらくは二人とも無言だった。ただ二人にはペダルが回る音と風を切る音しか聞こえなかった。先に沈黙を破ったのは、紫の方だった。

「…ごめん」

 彼の背中に向かって彼女は言った。小さな声だったが、充分彼には聞こえていた。

「昨日のこと、謝りにきたの。でも、メールとかし辛くて…。で、校門の前で待ってたの。そしたら、他校生ってだけであんなに人が集まっちゃって…」

 申し訳なさそうに話す紫に、涼は小さくため息をついた。

「…まぁ、いいけどさ。お前、夏野と知り合いなの?」

 彼が尋ねると、紫は首を横に振った。

「人がいっぱい来ちゃって困ってたら、涼がきてくれて。あぁ、本当に良かった…」

「そう…」

 誰かがたまたまそこにいた夏野に声を掛け、彼を裏門に行かせたのだろうか。その"誰か"とは、涼にはだいたい見当が付いていた。

「マックでも入る?」

「うん」
 
 涼は、駅前のマクドナルドを目指し、ペダルを目一杯漕いでいた。

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