とけていく…
 上履きに履き替え、涼達は新しい教室に向かっていた。その廊下の途中、音楽室がある。

 誰もいない、音楽室。戸の窓から、涼は何気なく中を覗いてみる。視線の先には、何も言わず、ただ佇んでいるだけのグランドピアノがあった。まるで誰かを待っているかのように、鍵盤の蓋が空いたままであった。

 待ち人は、来るのか…?

 彼は、ついそんなことを胸中でつぶやいていた。

「涼、何やってんの?」

 何歩か前を歩いている雄介が立ち止まり、こちらに向かって呼びかけている。

「あ…、いや。なんでもない」

「朝からイケナイ事してる奴でもいたか」

 ニヤっとしながら、雄介は付け加えた。

「お前の頭の中はそれしかねぇの?」

 苦笑いを浮かべながら、すかさず突っ込むも、不意に浮かんでしまった由里の顔を打ち消すようにして、涼は再び歩き出した。

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