とけていく…
 ある日の放課後、涼が西日が集まる下駄箱でスニーカーにはき替えていると、廊下をぱたぱた走る音が聞こえてきた。そして、その足音は彼のすぐ後ろでピタっと止まった。振り返ると同時に、背中をぽんと叩かれる。

「あ…」

「よっ」

 目の前に立っていたのは、真紀だった。

「なんだ…」

 涼は、ついそう口走った。

「なんだ、とはなんだ」

「そのまんまだよ。」

 相変わらずなやり取りを一通り終わらせると、あきれ気味に「で、なんだよ。」と涼は彼女に尋ねたのだった。

「あ、一緒に帰ろうと思ってさ。今日、お店来るでしょ?」

 真紀は爪先を床に軽く打ち付けて靴を履きながらさらりと言った。

「思いっきり当てにしやがって…」

 涼はわざとらしくため息をついて見せた。しかし、相変わらず彼の嫌がる様子を気にすることなく、真紀は目一杯目を三日月にして笑っていた。

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