とけていく…
「…キスされるのかと思った」
「…違う!!」
涼は激しくそれを否定するが、赤い顔での否定は何の説得力もなく、真紀は涼の強い視線から逃れるように目を逸らした。
「でもさ、今ので涼の由里さんへの愛情ってのが、どんなものか解っちゃった。ごめんね、変なことに巻き込んじゃって。」
「何言ってる…?」
彼は目を逸らす真紀の両腕を思わず強く掴んでいた。
「…痛いよ、涼」
そんな彼の手を振りほどき、真紀は彼の目を一瞬だけ見ると、「…もう、邪魔しないから」と口にして、歩き出したのだ。
真紀のその言葉に、涼は血の気が引いて行くのを感じていた。睨んでいた目の力は失っていた。
脱力感と喪失感に襲われていた涼は、真紀を追いかけることなどできなかった。足に力が入らず、立っているのが精一杯だったのだ。そして次に襲ってきたのは、心の傷がえぐられるような痛みだった。
痛い…
痛い…
痛い……
思わず心臓を痛みから守るように、彼は手で胸を抑えていた。
(この痛み、どうやって和らげればいい…?)
涼は、小さくなって行く真紀の後ろ姿をぼんやりと見つめつているだけだった。