とけていく…
「…俺ならそんな思いはさせないけどな」

 ひどく落ち着いた正樹のその口調に、真紀は意味を理解するのに時間を要した。そして、目を丸くして正樹の方にゆっくりと顔を向けたのだ。

「そんな驚くことかな?」

 正樹の問いに、真紀は黙ってうなずく。すると、「鈍感な奴」と、正樹は笑い飛ばした。

「鈍感って…」

 そう呟きながらも、真紀は動揺を隠しきれない。そんな様子を楽しそうに彼は見ていた。

「だって、最近まで普通に彼女、いたじゃない」

「彼女だよって、紹介したことないだろ。」

 正樹はそう言ってから、アイスコーヒーに口をつけた。

「は…? なにそれ… 意味わかんないよ」

 眉間にしわを寄せて、腕組みをしたまま真紀は、目をパチクリとさせた。

「…ま、急いでないし。ゆっくり考えたら?」

 ニコッと笑う正樹には、何の迷いも感じられなかった。その時、トースターのタイマーが鳴ったのだが、その音を聞き逃してしまう程の衝撃を、彼女は受けていたのだった。

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