とけていく…
 もうあれ以来、涼がドルチェに行くことはなかった。失ったものを、紫が一生懸命埋めてくれようとしていることが、いつしか当たり前になっていた。

 インターハイ予選の初戦観戦をサボった彼らに雄介はいじけていたが、ふと気付けば、嬉しそうに、白い歯を見せて笑っていた。

「大事にしてやって」

 雄介は、紫から相談を受けていた身だ。肩の荷が降りたといった心境なのだろう。

時々、涼は学校で真紀の姿を見かけることがあった。遠目でそれを見つけ、友達と歩くその姿を見つめていると、目が合う時もあった。そんな時、いつもならきっとどSな微笑みを浮かべるはずなのに、彼女は小さく笑ってから目を逸らすのだ。

(違う…、あれは由里じゃない)

 今更ながら、そんな風に思う涼だったが、もう後戻りなどできなかった。これ以上、彼が真紀の後ろ姿を追うことはなかった。


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