待つ空


草刈り機で雑に草を刈り、それでも取り切れなかった雑草は、軍手をはめた右手でブチブチと抜いていく。
ゴミ袋の持ち手をズボンのポケットにねじ込んで、取れた雑草はすぐに袋の中へ入れられるようにしておいた。

炎天下の中慣れた作業を黙々と続ける私に、「ねぇ貴方」と声を掛けたのは、あの日傘の女性だった。

「今日でここに来るのをやめるって、さっき浅野さんから聞いたのよ」

振り向かない私の背中に向かって、女性はゆっくりと言葉を紡いだ。
彼女が先天的に足が不自由だということは、ここに来てすぐに浅野さんというスタッフから教えられた。
そして、口周りの筋肉も弱く、上手に喋ることができないのだということも。

だから私は、どれだけ聞き取りづらくても、彼女の言葉は最後まで聞くように心がけていた。
早く言えよと苛立つことはあったけれど、それを口にすることはない。

だって、私も吃りだから。

「やっぱり若いものね。
こんな古い老人ホームで草抜いてるよりも、遊びたいお年頃だものね」

女性の言葉を聞きながら、私は額に浮かんだ汗を拭った。
軍手でこすったせいで、額には土が付着し、不快さが増した。
早く家に戻ってシャワーを浴びたいと思いつつ、足下にあった一際背の高い雑草を、私は乱暴に抜いた。

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