コンビニにて

帰宅すると、珍しく母が帰っていた。

「駅前でドーナツ買って来ちゃった」

おかえりなさい、の代わりにそう言われ、私は頬をほころばす。

「今日は早いんだね」

靴を脱ぎながらそう言って、リビングへと早足に入って行く。
台所でレトルト食品を温めていた母親は、私を振り返らないまま「まぁね」と言った。
ふんわりとしたワンピースを着ている母を見て、私は次の言葉を飲み込んだ。

(今日は一緒に夕ご飯を食べられるんだね)

そう言わなくて良かった、とすぐに思った。

「これからお母さん、職場の人たちと飲み会なの。

夕飯はもう温めておいたから、好きな時に食べてね」

レトルト食品を電子レンジから取りだして、母親は笑顔でそう言った。

私も笑顔を作って、大きく頷く。
玄関まで母親を見送りに行く時、どうしようもない寂しさを覚えたのは言うまでもない。

かつての私の夢は、母親と同じ職場で働くことだった。
そうすれば、ずっとずっと一緒にいられるからだ。

嫌なことを思い出しながら、私は閉められた扉に向かって手を振り続けていた。

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