読めない本と透明な虫




開け放たれた窓から爽やかな春の風が舞い込んでくる。木々はさらさらと歌い、机の上に置いたままだった「透明」のページがすららと捲られていった。

風が捲ったページを追って、私は何気無くその文字を読んだ。


『失恋も立派な恋の続き』──


風が踊るように吹く。
ページが、捲られていく。


『そうして、やがて』──


風がさらさらとページを捲っていく。
窓から差し込む陽光が白い紙に反射して、輝いて見えた。目の前の彼がいつの間にか読書を再開している。図書委員の、知らない生徒が小さくくしゃみをした。鳥は鳴いて、飛び立っていく。校庭からは陸上部の掛け声、木々は相変わらず歌ってる。

私はゆっくりと瞼を下ろした。

胸が静かに波打っている。その中で心が震えているのが分かる。覚えのある感覚に、瞼の裏には涙が滲んだ。

目を開けると、まるで長い夢から覚めたような清々しさがそこにはあった。

私はきっと大丈夫だ。先輩のことを思うと今でも胸がぎゅう、と痛むけれど、でも。きっと大丈夫だ。この涙の愛しさを知ったから。

いつかきっと。この胸の痛みさえも、愛しいと思える日が来ると、思えたから。


そうして、やがて
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