読めない本と透明な虫
初めての恋だった。
委員会で隣の席だったことがきっかけで仲良くなった先輩。ひとつ年上の、少しおっとりした優しい人。笑うと目元に皺が寄る。そんなところも好きだった。バスケ部に入っていたことは聞いていたけど、先輩が走ったりするところなんて想像もできなくて。でもあるとき友人に誘われて見に行ったバスケ部の練習試合で、私は衝撃を受けたんだ。"あの"先輩が。汗を滴らせて、きりりとした表情で、それでもすごく楽しそうに。コートの中を走り回ってた。……格好良かった。
大好きだった。笑う目元も、ゆっくりとした口調も、すぐに居眠りしちゃうところも、バスケをしている姿も。
一年間の片思い。先輩は三年になっていた。先輩が卒業する前に、と私は意を決して告白した。委員会以外でも校内で会ったら話をしていたし、バスケ部の試合はあれから欠かさず見に行っていたし、何より先輩に彼女が居るような話は聞いたことがなかったから、もしかしたら。もしかしたら、首を縦に振ってくれるんじゃないかな、なんて。そんな、淡い、期待。
──だった。
『ごめん』
「……元気出しなって。由衣子(ユイコ)にはもっといい人居るよ」
一晩中泣き腫らした目で授業中もずっと俯いたままの私に、友人のアキはそう声を掛けてくれた。
「うん……ありがと」
はっきり言ってもう恋なんてする気にはなれない。失恋がこんなにも辛いものだったなんて。失恋系の恋の歌が多いのも頷ける、今ならポエマーになれそうだ。つらい。
「保健室行く? 今日はもう帰る?」
アキが私の頭を撫でながら聞く。ああもうこの子の優しさに泣く。