読めない本と透明な虫
その先は



***


──自室。机に置いた本の表紙を私はそっと撫ぜた。例の透明な少年から借りた「透明」というタイトルの文庫本。
心なしかひんやりした温度のその本は、撫でるとさらさらという音を立てた。

彼の言葉をなんとなく思い出してみる。あの図書室で泣くだけ泣いてやっと落ち着いた私に音もなく差し出された、「透明」。

『お貸しします。この本はきっと、貴女に読まれるために生まれてきたんだと思うから』

彼はそう言った。

ぺらり、ページを捲る。
再び溢れる美しい文字の羅列。
きれいな、恋。

涙を滲ませながら私は一気に読んだ。一度も本を閉じることなく、文字を追うことをやめることなく。



「透明」という短編集の最後のお話は、失恋の物語だった。

主人公の女性は、長年想いを寄せ続けた男性にその丈を告げる。しかし、あっさりと断られてしまうのだ。今までの付き合いは一体何だったのかと思ってしまうくらい、あっさりと。

女性は落胆する。泣いて泣いて泣いて、声が枯れて目が腫れるまで泣いて、眠る。何日も部屋に籠って、泣き続ける。
しかしある日、冷蔵庫の食材が遂に尽きて、女性は食糧を買いに行くために仕方なく外へ出る。

そして、玄関の扉を開けた瞬間、気付くのだ。

爽やかで優しい春の風、透き通るように青い空、降り注ぐ陽光と、それに反射する木々の葉。

女性は世界の眩しさに目を細め、その美しさに心を震わせた。覚えのある感覚に、女性はふと思う。

──ああ、私はまだ恋ができるんだ。

頬に流れる涙は、今までのどんなそれよりも透明だった。そうして、やがて

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