202号室の、お兄さん☆【完】
「グッモーニンッ 今日ハ、デートでスカ?」
所々、不自然な発音で話すドラガンさんは、先日の達者な日本語が嘘のように下手になってました。
「ドラガンさ、ん……?」
私が首を傾げると、ドラガンさんは私の耳元まで屈み、囁くように言いました。
「駅前で英会話教師してるので、ネイティヴな日本語は話せません。誰が聞いてるか分からぬから」
「えっ」
「自分より、日本語が上手い英会話教師は嫌煙されるのじゃよ。結婚式の神父のバイトも、わざと片言に直しておる」
「た、大変なんですね……」
私がにへらっと笑うと、ドラガンさんは凛々しく微笑んだ。
「今かラ、休憩ネ。撫子も一緒行カヌかね?」
サラリとカバンを奪われ、促されるように手を取られた。
さすが、というかリードが上手いです。
でも、
「あ、あの、私、今から用事があるんです」
「少し待たせればイイネ。儂と、六波羅探題につイテ語りますよ?」
語るってどんな事を???
なんとかやんわり押し問答していると、いきなり肩を掴まれ、ドラガンさんと引き離された。
「?」
引き離した相手は、想像通り、
――岳リンさんだった。
「これ、俺の妹なんだけど?」
そう言ってサングラスを外し、ドラガンさんを睨みつけた。