202号室の、お兄さん☆【完】
「あの、これ」

私が濡らしたハンカチを渡すと、ベンチにもたれかかっている岳理さんは無言で受け取った。

「今乗ったの、お子様用ジェットコースターですよね?」
「……うるさい」

私でさえ、風が気持ち良いな、とか、下りはスリルがあって楽しかったな、と思う程度だったのに、
岳理さんは降りた瞬間、顔色を悪くして、ふらふらしながらベンチに座り込んだのだ。


「お水、買ってきますね」
そう言って、近くの自動販売機へ走る。

ヴーヴーヴー

カバンが振動しているのに気づき、慌てて携帯を開くと、やはり皇汰だった。


『今、どこ?』

そう書かれていて、ハッとした。
カップルスペースに行かなければいけなかった事を。


カップルの雰囲気を作り上げ、おだてておだてて、良い気分にさせた後に、お兄さんの事を聞かなきゃいけないのに。



『今から向かいます』

お水を買って、岳理さんの所へ急いで戻った。

まだ岳理さんはベンチに座り、ハンカチで顔を隠しつつ、天を仰いでいた。


「あの、これ……」
「――悪いな」

そう言うと、水を飲みやっと顔からハンカチをとった。



「次、どこ行く?」

そう、真っ青な顔をして言った。


……どうしよう。
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