202号室の、お兄さん☆【完】
「千景ちゃんに聞いてみます」
「……ああ」
ヴーヴーヴーヴー
観覧車が頂上に到着する頃には、夕日は完全に沈み、空は夜の顔になっていた。
ヴーヴーヴーヴー
作戦、失敗しちゃったけれど、最初から逃げなければもっと真実は、近かったのかもしれない。
「鳴海は……」
岳理さんは、重い口を開いた。
「鳴海は、俺に初めてできた、『親友』だった……」
その時、
朗らかに笑うお兄さんの隣で、暖かく見守る、岳理さんが想像できた。
岳理さんも、ただお兄さんが心配なだけだったんだ。
ヴーヴーヴーヴー
「電話、出ろよ」
「そ、ですね」
ヴーヴーヴーヴーヴー
何故か、今はまだ会話が無くても2人で居たかった。
同じ気持ちのこの人と。
ヴーヴーヴーヴーヴー………
ピタリと携帯が静かになると、岳理さんは溜め息をついた。
「今日は、楽しめたか?」
「はい?」
「初デート、楽しめたか?」
「あ……」
ど、うだろう。
岳理さんの真っ青な顔しか記憶にないな……。
でも、
「良い体験になりました」
初めて乗ったジェットコースターも珈琲カップも、とてもわくわくして楽しかったかな。
「そう」
短い会話をした後は、下に降りるまで無言だった。
けれど私は、もう岳理さんを、冷たい瞳だとは思わなくなっていた。