202号室の、お兄さん☆【完】

「千景ちゃんに聞いてみます」
「……ああ」

ヴーヴーヴーヴー

観覧車が頂上に到着する頃には、夕日は完全に沈み、空は夜の顔になっていた。


ヴーヴーヴーヴー

作戦、失敗しちゃったけれど、最初から逃げなければもっと真実は、近かったのかもしれない。


「鳴海は……」
岳理さんは、重い口を開いた。

「鳴海は、俺に初めてできた、『親友』だった……」

その時、
朗らかに笑うお兄さんの隣で、暖かく見守る、岳理さんが想像できた。

岳理さんも、ただお兄さんが心配なだけだったんだ。


ヴーヴーヴーヴー


「電話、出ろよ」

「そ、ですね」

ヴーヴーヴーヴーヴー

何故か、今はまだ会話が無くても2人で居たかった。
同じ気持ちのこの人と。


ヴーヴーヴーヴーヴー………


ピタリと携帯が静かになると、岳理さんは溜め息をついた。


「今日は、楽しめたか?」

「はい?」


「初デート、楽しめたか?」

「あ……」


ど、うだろう。
岳理さんの真っ青な顔しか記憶にないな……。

でも、

「良い体験になりました」

初めて乗ったジェットコースターも珈琲カップも、とてもわくわくして楽しかったかな。


「そう」

短い会話をした後は、下に降りるまで無言だった。

けれど私は、もう岳理さんを、冷たい瞳だとは思わなくなっていた。
< 123 / 574 >

この作品をシェア

pagetop