202号室の、お兄さん☆【完】
「定宗さんは、僕の親代わりなんですよ」
それは、前に千景ちゃんが教えてくれた気がする。
「僕が記憶喪失になっちゃって、情けないから心配だったんでしょうね。せっかくここら辺りのボスだったのに、引退してくれてまで、そばに居てくれてます」
髪をゆっくり2つに分けて、ぎこちなくですが、結んでくれてます。
「愛されてますよね、お互い」
私なんて、未だに定宗さんに話しかけると、チラッと横目で見てくるだけなのに。
「僕は、みかどちゃんも好きですよ」
……深い意味は無いですがね。
「入居してから、どんどん可愛くなっていってると思います。
接客も緊張はしてるけど、慣れてきてますし」
「それは、お兄さんのおかげです」
お兄さんが、緊張してたりオーダーの確認の時にさり気なく、近くに立ってくれたり、目線をくれるから。
分からない時は、スッと隣に来て見本を見せてくれるから。
質問ばかりでも、嫌な顔1つせずに丁寧にしてくれるから。
「私は、今まで小さい世界で、勉強だけして生きてきたから、お兄さんや千景ちゃんの優しさのおかげで、毎日が新しく、そして楽しいんです」
真っ暗な夜に、流れ星が降るように。