202号室の、お兄さん☆【完】
皇汰に腕を引っ張られ、大急ぎで花忘荘へ帰った。
帰ると、庭で草むしりしているのは葉瀬川さんだけだった。
他の人たちは、開けっ放しのドアの千景ちゃんの部屋に居るみたいだ。
「……私、午後は古書店巡りしたいから抜けますよー」
三つ目と思われるゴミ袋を結びながら、葉瀬川さんは言った。
「あ……あの、一体何が?」
恐る恐る聞くと、葉瀬川さんはゆらりと立ち上がり、雑草の中を指差した。
「あれ。あれ見たら、倒れた」
指差した方向を辿ると、雑草が刈られた奥に、土が盛っている場所があった。
子どもが作った、砂の山のような。
「何か埋めたんじゃない? ペットとか」
そう言って、4個目のゴミ袋を満タンにした。
「――お姉さんとか」
「はぁ!?」
皇汰が聞き返すと、アンニュイに葉瀬川さんは応える。
「だって、私は鳴海んのお姉さん、見た事ないし。
昔よく、夜中に子どもが泣く声が聞こえてたらしいし。
鳴海んの泣き声かな、お姉さんの泣き声かな」
「はぁ~せぇ~が~わ~さぁぁぁん~~」
淡々と話していた葉瀬川さんに、地響きのような低い声で怒鳴ったのは――千景ちゃんだった。
「鳴海さんの姉は、亡くなったっておばあちゃんから聞いてるの。変な話は止めて」