202号室の、お兄さん☆【完】
「ぼ……く」
そう言って、お兄さんはおにぎりを1つ、手に取りました。
「僕、姉が居たんです、ね」
そう言うと、おにぎりを一口食べました。
「お兄さん……? 思い出したんですか?」
「…………」
お兄さんは頬にご飯粒を付けながらも、何も言わなかった。
「お兄さん?」
「帰ります」
そのまま、立ち上がり、千景ちゃんにお辞儀して靴を履いた。
「待ちなんし! 皆、まだ頑張って庭を綺麗にしとるんじゃ」
ドラガンさんが強く呼び止めてると、お兄さんは弱々しく振り返って謝った。
「でも、部屋に帰らなきゃ。
僕も姉みたいに……」
「鳴海さん、いい加減にしなさいよ?」
お玉を持った千景ちゃんが凄むと、お兄さんは悲しそうな顔をした。
「部屋から出たら、姉みたいに死んでしまうから」
…………。
パタン。
千景ちゃんの部屋から出て、二階への階段を登る音が響く。
千景ちゃんの部屋は、豚汁を煮る音しか聞こえず、静まり返った。
「――生きてる事までは、思い出さなくて良かった」
そう寂しげに言った後、火を止めた。
私はただ、お兄さんが消えた後のドアを、茫然と見ている事しかできなかった。
また、明日から土曜と日曜。
お兄さんの、『監禁日』が始まるんだ。