202号室の、お兄さん☆【完】
「うん」
私も、嫌な気持ちを吹き飛ばして、花壇作りに専念した。

午後は、マンションのせいで日陰になりやすいから心配だけれど。

けれど、日が当たる時間も確かにあるんだ。

皆は、ちゃんと気づいている。
私だって、いつまでも気づかないわけではない。



「なぁんか、地味だよね、アパートの表札」

『花忘荘』と刻まれた壁を見ながら、千景ちゃんが言う。

「そうだねぇ。また苔とかですぐ見えなくなりそう……」

「……」

2人で無い知恵を絞るが、アイデアは浮かばなかった。


「……リヒトにデザインしてもらえ。表札ぐらいなら作ってやるよ」
「本当ですか!?」

探偵で、将来はお坊様で、その上、表札も作れるなんて!

私が目をキラキラさせていると、急に千景ちゃんが立ち上がった。

「やっば! 私、テニス同好会に行かなくちゃ
夜はラーメン同好会だから、遅くなるの」
「いってらっしゃい。
色々ありがとう」

「みかどーっ。最後まで付き合えなくてごめんね。
あんたは馬のごとく働きなさいよ。」

そう、岳理さんに吠えると千景ちゃんは風のような速さで出かけて行った。


「休憩します……?」

「いや。もう少し」

2人きりになり、多少気まずいながらも、無言で作業した。
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