202号室の、お兄さん☆【完】

そして、壁を、

――蹴り始めたのだ。


「なっ! やめっ!! 止めて下さい!!!」

私が止めても、岳理さんは構わずに壁を蹴り続ける。


「何するんですか! 駄目っ駄目です!」


隣は、物音一つしないけれど、お兄さんが居るのに。

まだ、全て分かってないのに、力任せに刺激するなんて……。
とっさに、テーブルの上のコップを掴む。

「出てこいよ! なる――…」

バシャッという音と共に、岳理さんの動きが止まる。

私は、コップにお茶を注ぐと、止まっている岳理さんに、再度かけた。
手が震えて、コップからお茶がこぼれている。

――いや、全身が震えて、いた。


「――うぅっ……ひっく」

震えて上手く、コップが握れずに、ゆっくり床へ落ちていく。



「気持ち、……は、わかりっまっ……。でもっ……でもっ!」
嗚咽が邪魔をして、言葉が吐けないけれど、苦しいけれど、岳理さんを止めたくて。





「駄、目です。 お兄さんを、いじめたら、駄目なん、です……」


部屋に閉じこもってるお兄さんは、何かから逃げて隠れてる、震えた子どもみたいに思えたから。



――まだ、その場所を、壊して欲しくなかった。

「お、前――……」
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