202号室の、お兄さん☆【完】
「あれだよねー。 岳リンって、形から入るよねー」
葉瀬川さんが、面倒臭そうに尚且つ適当に床を拭いてくれている。
それ、トイレにかけていたタオルです……。
「鳴海んやみかど女史を監視する時は、探偵みたいな汚いコート来たり、
法事には、馬鹿みたいに黒スーツで正装したり、
花壇作りにはわざわざ繋ぎ着たり、
君、コスプレが好きなのかい?」
吹き終わったタオルを、洗面所で洗ってくれながら呑気にそう言うが、私も岳理さんもその場から動けなかった。
「岳リンは、気づいて欲しくて、こっちを見て欲しくて暴れる子ども。
みかど女史は、勝手に諦めて、勝手に爆発して自滅する子ども」
そう言って、残っていたおにぎりに手を伸ばす。
「そんなお子様達には、鳴海んはどうもできないし、彼の気持ちには到達できないよー」
そう言って、私に一冊の漫画を手渡した。
「もっと、彼の視点に立ちなさい」
さすが、大学教授。
いつもの面倒臭そうな語尾を伸ばした口調なのに、優しく落ち着かせてくれるトーン。
ゆっくり私の心も落ち着いて来たけれど……。
「週刊少年スキップ……?」
これを読めば、お兄さんの気持ちに慣れる……かな?
「うん。読んだからあげるよー」
――あれ、それって要らないだけでは……?