202号室の、お兄さん☆【完】
大学に行く朝、迎えに行くと千景ちゃんが言った。
まるで、挨拶するかのように、あっさりと。
「ええー!?」
「でも、本当にひょっこりだから、いつかは分からないよ。
ベルギーで鳴海さんにチョコを買うから寄りたいとか言い出して、日にちは分からないって言ってた」
凄い……。スーパーに野菜を買いに行くかのような、セレブの買い物だ。
「実は、私も行方不明の父と連絡がとれそうです」
「やったね! なんかとんとん拍子だよね」
千景ちゃんが、そう微笑んでいたが、急に真顔になった。
「千景ちゃん?」
私も千景ちゃんの見ている方向を見ると、――お兄さんが、いた。
ボサボサ頭のパジャマ姿で、
昨日完成した花壇の前で座り込んでいた。
「鳴海さんが倒れて役に立たなかった間に、完成したのよ」
「千景さんっ」
顔を上げたお兄さんは、申し訳なさそうに微笑んでいた。
「すみませんでした。でも、もう落ち着きました」
そう言って、花壇に刺さっているプレートを愛しげに見つめた。
「ビオラとサフィニア……。どんな花、なんですかね」
楽しみです、と微笑むお兄さんは、可愛かったです。
「私、植物図鑑持ってますよ。
見ますか?」
私がそう言うと、嬉しそうに微笑んだ。