202号室の、お兄さん☆【完】
私は急いで部屋に植物図鑑を取りに戻り、お兄さんに渡した。

「水やりは、私が毎日しますが、良かったら少し勉強して下さい」

そう言うと、お兄さんは立ち上がって、本を受け取り、パラパラ捲った。


「はい。――ありがとうございます」
「………」

いつもと変わらない、日常。
変化の無い、お兄さん。

なのに、私はとても落ち着いてお兄さんを見れた。

あんなに土曜日、岳理さんと暴れたり泣いたり叫んだりしたのに、お兄さんには何一つ届いていないから。
そう思ったら、私の心はとても冷静になれた。冷たいほどに。


「あら、そんなの持ってたの?」
千景ちゃんも鳴海さんが見ているのを覗き込む。


「うん。がく………!」

岳理さん、と言おうとして、冷静だった私の心臓が早く波打った。


――植物図鑑代返して、ない!
――お兄さんの前で、岳理さんの名前を出してしまいそうだったっ!

――今週の水曜日、岳理さんとー……。



「みかど?」


挙動不審な私を覗き込んで首を傾げる。


「だ、だだ大丈夫! 早く大学行こう!」


私は何度も何度も首を振って、無理やり思考を吹き飛ばした。

……考える事がいっぱいありすぎて、爆発しそうです。
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