202号室の、お兄さん☆【完】
「他に何か言ってましたか?」
「んーや。何も」
とうとうネクタイを外した葉瀬川さんは、机の上の漫画に手を出した。
……私が家を追い出された事は知らないのかな?
知ってても、どうでも良いのか、出て行って清々してるのか……。
詳しい日時は、皇汰に聞こう。
でなければ、
――私の気持ちが、ドロドロした黒い感情で覆われてしまいそうです。
「おい」
パコンと、漫画で叩かれる。
「あー、漫画は大切にしてくれたまえ!」
私の心配より漫画を心配する葉瀬川さんは、さすがです。
「何ですか?」
「明日、迎え行く。どこにする?」
「あっ……」
視界の隅で、千景ちゃんがニヤニヤしているのが分かった。
「明日…は、お昼からは講義ありませんから、何なら其方まで歩いて……」
「じゃあ、13時に学校まで迎え行く」
ああ、この人意外と頑固みたいです。
「みかど、迎えに来て貰いなさいよ、孔礼寺って山の上にあるのよ」
ぷぷぷと声を我慢したように、千景ちゃんは笑っています。
私は、岳理さんを見上げると、無表情ながら、何故か優しさが感じられる瞳で見返されました。
「じゃ、明日」