202号室の、お兄さん☆【完】
そういえば、私、男の人と2人で車に乗るなんて初めてです。
助手席は、革製の高級感ただよう作りだし、飾られている香水の瓶や、黒い薔薇が刻まれた煙草の灰皿はお洒落です。
ハンドルを握る大きくてゴツゴツした手や、広い肩幅、色気のある横顔……、密室のせいか何故か少し緊張します。
「――何?」
じろじろ見ていたのがバレたのか、サングラス越しに睨まれました。
「いえ。あ、の……この車やいつぞやの黒いベンツは、岳理さんのなんですか?」
「何で?」
「皇汰が、岳理さんは探偵じゃないって言ってたから」
探偵で稼いでないのなら、こんな高級車買えるはずないし……。
「家が金持ちだから、親が買ったって言いてぇの?」
「いえ。お仕事、本当は何されてるのかなぁと……」
そう言うと、もう慣れてしまいましたが、岳理さんは舌打ちしました。
この舌打ちも、慣れれば不快にならないから不思議です。
――不器用な、返答みたいで。
「来れば分かる」
そう言って、降ろされた場所で私は躊躇しました。
「や、やっぱり帰ります」
「行くぞ」
拒否権は、無いのですか?
私の目の前には、108段と書かれた石の看板と、長い長い石の階段が。