202号室の、お兄さん☆【完】
「……父は、お義母さんの行動に無関心かもしれませんよ」
車は街中を駆け抜ける。
ビルのネオンが流れるようにキラキラ輝くのを、私は冷たくなった瞳で見ていた。
岳理さんは返事はしなかったけれど、私は話を続けた。
「私、確かに義母は苦手だけど、八股するような父だから、どうせ浮気すると思うから、同情してしまって、言い返すのも躊躇ってた……です」
あんなに、色んな女性を泣かせ、慰謝料請求され、ゴタゴタしたのに、平気で父に寄り添えるのも、ちょっと理解できないし。
「そんな人が、私や義母に感心があると思えないです」
そう言うと、岳理さんは暫く黙っていたが、やがて重い口を開いた。
「俺は、鳴海やみかどが傷つく要因が少しでも緩和されるだけでもいい」
信号で止まり、少しの静寂が訪れた。……後ろからの鼾以外。
「楠木教授も敵だと判断できれば、それだけで収穫だ」
……最初は、鳴海さんだけの為だったのに。
今は私の名前も出してくれた。
「だから、連絡しろよ」
岳理さんからは、お酒を我慢していた分、強い煙草の匂いがした。
苦くて、好きになれない匂いなのに、
甘く私を締めつけた。
「……はい」
時間が早く流れて欲しかった。