202号室の、お兄さん☆【完】
水色と紺色のボカシ染めの地色に、桜吹雪の柄が華やかに描かれている着物を上品に着こなし、
控えめなお化粧に、髪を結い上げた、年配の女性。
「おばさん!」
目を見開いて驚いたお兄さんは、ゆっくりと笑顔になる。
この方が、千景ちゃんのおばあちゃんで、お兄さんの身元引受人で、
お兄さんの過去を全て、知る人……?
「お会いしたかった……」
お兄さんは、愛しげにその女性を抱きしめる。
日傘が宙を舞いました。
「まぁっ。 鳴海さんったら」
その女性も、お兄さんを愛しげに見つめ、抱き締め返した。
「今、貴男にお土産を届けようとお店に向かっていましたのよ。
どちらへお出かけなさってたの?」
「あ、お店の観葉植物を買いに……」
お兄さんはまだ抱きついたまま、そう言うと、女性は首を傾げた。
「あら、観葉植物は、定宗さん達に害のある物もあるのよ。ちゃんとお調べしたの?」
「ええ!? してません」
「じゃあ、急ぎで無ければ後日になさったら?
先にお土産を見て欲しいわ」
そう言った後、ゆっくり此方を見た。
「貴女とも、お話したいしね。
――楠木みかどさん」
優しく上品に、全てを見透かすように笑った。
私の全身に緊張が走ります。