202号室の、お兄さん☆【完】

「フラッシュバックは……もう大丈夫です」

お兄さんも苦笑いしか出来ず佇むが、管理人さんは尚も続ける。


「本当に……? 貴男、これ以上思い出すならば、私が居る時にしてちょうだいよ」

「奥様!」


運転手に呼ばれ、少し振り返る。 耳元で何か囁く運転手に、管理人さんは少し困った顔をした。


「唯一さんや理人さん達にもお会いしたかったのに、もう行かなければ」

「もう!?」

お兄さんが大きな声を出して驚くと同時に、私も冷や汗が出ました。

今帰られたら、結局何も分からないままになってしまう、から。


「私(わたくし)に挨拶したいと言ってる方々とお会いしなければいけないのよ。明日はイギリスに飛ぶので、お見送りに……」

そう言って、珈琲カップを持つ手を止めた。


「明日は土曜日だからお見送りは無理でしたわね。
次はまた1ヶ月後に帰る予定だから、気にしないで。
大変、もう約束の時間だわ」

「あの!!」

2人の会話に無理やり、口を挟んで申し訳なかったけれど、声をかけた。


「車まで送らせて下さい!」


そう言うと、管理人さんは優しく笑った。


「ええ、是非に」
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