202号室の、お兄さん☆【完】
夫が病に倒れ、急遽夫に任せていた幾つかの不動産を私が管理する事になりました。
と、言いましても私がほぼ岸六田の不動産の管理をしていましたので、2,3個増えるぐらい別に何とも思っていませんでした。
あの花忘荘も同じ。
不動産の1つぐらいしか考えておりませんでした。
けれど、
『あれ? 管理人のおじさんは?』
私が業者に頼み草むしりをしていた時に、鳴海さんにお会いしました。
えらくボロボロで伸びきったセーターで、手も隠れるぐらいサイズが合っていませんでした。
……少し、薄汚れてもいましたわね。
『夫は、入院中なんです。今日から私が管理人になります』
『そうなんだ! 僕ね、なるみっていうの。おじさんの代わりに遊んでね』
確か……まだ小学一年生でしたわね。
一年生なのに、ボロボロの黒いランドセルをいつも背負っていました。
草むしりが終わった後、私が帰る時に走って追いかけてきました。
『管理人のおばさん、待って!』
『なぁに?』
鳴海さんは私に、広告で作った鶴を一羽、手のひらに乗せてくれました。
『これ、おじさんに渡して。僕ね、早く良くなりますようにって折ったんだ』
『まぁ……』
鳴海さんはこの頃から、とても心の優しい少年だったのです。