202号室の、お兄さん☆【完】
「……ね? 他言するには重すぎる話でしょう?」
麗子さんは、ハンカチをキツくキツく握りしめながら、そう言った。
私は、余りに重いお兄さんの過去に、言葉を失ってしまった。
「鳴海さんは3週間、202号室で帰らない母親を待っていましたわ。
……お母様は人身事故で顔も分からない酷い有り様で、身元を判明するのに、3週間かかってしまったの……」
そう言った後、
突然、すぅーっと麗子さんの瞳から涙が流れ落ちた。
「鳴海さん、3週間ずっと202号室で、何も食べずに過ごしたの。
久しぶりに私が偶然立ち寄った時に、余りに猫が鳴くので二階に上がりましたの。
――定宗さんが鳴いてなかったら、私は鳴海さんを殺してしまっていたでしょうね」
ポロポロ泣く、麗子さんは静かに言った。
「開けた202号室には、
鳴海さんが畳の上に倒れていました……。
手でかきむしった畳を口の中に頬張って……」
鳴き止まない定宗さんの声、
広告や畳を食べて飢えを凌ごうとした、お兄さん。
想像なんて、したくなかった――…。