202号室の、お兄さん☆【完】

「入院して目覚めた時、鳴海さんは全ての記憶を無くしていたわ。姉が居た事も、どうして入院したのかも。

でも、思い出したら吐いたり倒れたりしてしまうから、無理に思い出す事は禁じましたの」

そうして、お兄さんは真っ直ぐ育ったんだ……。


「やっと落ち着いた……大丈夫だと思っていた矢先、大学でお姉さんと再会して、フラッシュバック……。

真絢さんと、自分を置いていった母親が重なったのかもしれませんわね」

男とデートする為に、鳴海さんを置いていった母親と、
私の父と学校内で抱き合っていた義母………。


生きててこれほどに、父親を殴りたいと思ってしまったのは初めてだ。



「私は、鳴海さんが全て思い出して壊れてしまうのが怖いわ。
あの優しい笑顔が壊れてしまうのも、全てが怖いわ。

だから、母親が亡くなって、姉が消えた土日を、未だ母親の言葉を守り、部屋から出れなくても」


土日に部屋を出たら、駄目よ。
そう言った、母親が土日に消えて帰って来なかったのだから。

ゆっくりゆっくり、お兄さんを洗脳していった日々は、記憶が無くなっても消えないんだ。
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