202号室の、お兄さん☆【完】
「おい!! 階段は走るなっ!!」
階段を駆け下りる私に、どんどん岳理さんの声は近づいて来ます。
それでも夜の暗い階段を、全力で駆け下ります!
ゴーン
その時、孔礼寺の鐘が鳴りました。
「みかどっ」
「きゃああああ!!」
腕を掴まれた私は、岳理さんに後ろから抱き締められるように、
――階段に座り込んでしまいました。
「――はぁっ お、前……」
「ううっ は、離して下さい」
じたばた見苦しく暴れると、岳理さんは更に強く抱き締めて来ました。
「離せるワケないだろ」
落ち着いてきた岳理さんは、怒ったような心配した声で言いました。
「泣いてるお前を、
離せるワケ、……ないだろ」
ギュウッと抱き締める腕が強くなり、私は嗚咽を隠すのを止めました。
そう、 私、
岳理さんの顔を一目見たら、安心して…………
涙が溢れてしまったんです。
自分でも気づかないうちに……。
ゴーン……
更に鐘が鳴って、我に返ります。
「か、帰りますっ」
「往生際が悪ぃな」
岳理さんは呆れた様子で笑うと、ボソッと耳元で言った。
「鐘の音で帰るとか、お前はシンデレラか」
鐘の音を聞いて、
石垣の階段を慌てて降りるシンデレラなんて、いません。