202号室の、お兄さん☆【完】
「え?」
「JPS、懐かしい匂いだろ」
フーッと煙を吐き出して、岳理さんは言った。
「学生時代から、銘柄は変えてない」
「!」
た、ばこ?
もしやお兄さんは煙草の匂いに反応したんですか?
お兄さんは2、3歩後ろにふらつくと、両手で顔を覆った。
「……れ?」
少し息を荒めたお兄さんが、絞るように声を出しました。
「あ、なたはだ、れですか……?」
岳理さんは答えなかった。
代わりにもう一回煙草の煙を吐く。
「みかどちゃん、お盆どけて下さい」
お兄さんはその場に呆然と立ち尽くしていた。
足が微かに震えているのが分かりました。
「い、嫌です」
「みかどちゃんっ」
お兄さんが覆っていた両手を下げて、ギュッと握り締めました。
「お願いします。お盆を、どけて下さい」
お兄さんの目は真っ直ぐで、でも微かに怯えて足は震えていました。
私も、お盆を持つ手が震えます。
――離したい。
――離したらいけない。
同時に色々と考えがよぎりました。
「みかど」
煙草を持った岳理さんが言いました。
「諦めろ」