202号室の、お兄さん☆【完】
葉瀬川さんの高級マンションは静かだったのは、壁がしっかりしていたから。
「お兄さん! お兄さん! 返事して下さい!! 聞いて下さい!!」
壁に耳を合わせると、微かにグズッと鼻をすする音がしました。
「み、かどちゃん……」
「お兄さん!」
「は……恥ずかしいから、今は放って置いて下さい。
じ、自分が恥ずかしいんです。
信じていた事が、全部全部嘘だったんです……」
岳理さんが髪をかきあげながら舌打ちします。
「だから、またそん中に逃げるワケ?」
「お、思い出したんです。おばさんの親戚にわ……笑われたのを。
『財産目当ての薄汚い子ども』……『畳は美味しかったか』って」
そう言って、お兄さんはしばらく沈黙したと思ったら、ゆっくりゆっくり言いました。
「で、も……お腹が空いてたんです。な、何でも良いから口に入れたかった……。
恥ずかしい。自分が恥ずかしいです。
土日は置いていかれてただけなのに、馬鹿みたいです」
震える弱々しい声は、胸が張り裂けそうになる程に痛々しかったです。
でも!
でも……。
「こ、こんな所があるから、お兄さんは逃げるんです!」
そう。
こんな部屋なんて……もう要りません。