202号室の、お兄さん☆【完】
「荷物整理終わったら、挨拶行くぞ」
皇汰が、挨拶用に用意したお菓子をテキパキと準備し始めた。
「まって! まって! アルジャーノンを窓辺に移すから」
急いで愛しのアルジャーノンを窓辺に置くと、段ボールに躓きながら皇汰へ駆け寄る。
「……アルジャーノンねぇ」
「私に似てるでしょ? 」
へへっと笑うが、皇汰はムスッとする。
「姉ちゃんの方が可愛いよ」
そう言って、私にお菓子を押し付けた。
今も、昔も、皇汰だけは優しくて可愛い。
皇汰にどれだけ救われたか。
「しっかし、ボロボロの鉄筋コンクリートのくせに床はフローリングとかめっちゃ変だよなー」
カンカン響く階段を降りながら、皇汰は文句を言う。
庭は雑草でぼうぼうで、
『花忘荘(はなわすれそう)』と書かれた壁は草や木のツルで、隠れている。
大学からは徒歩10分だし、お風呂もトイレもついている、六畳の一人部屋はなかなか良い物件だとは思う。
……高級マンションの隣で、常に日陰のせいか薄暗く、ボロボロの外見以外は。
本当に、お化けが出そうにボロい。文句は言えないんだけどね。
築60年の外見は恐ろしい。
「まずは、管理人さんだよな」
弟が足を止めたのは、
『101号室』。
中からは、カレーの良い匂いがしていた。