202号室の、お兄さん☆【完】
「――じゃあ、本当の理由は何なんですか?」
急に機嫌の悪くなった岳理さんが、無表情で言った。
お兄さんも、定宗さんを抱き締める手に力が入っていました。
――そして驚く事に、定宗さんが嫌がらずお兄さんにすり寄っているのです。
2人と一匹の剣幕に負けた厚川さんは、渋々と話し始めました。
「血統書付きの犬を飼ったら、ヴィクトリアーヌちゅわんがなかなか帰って来なくなったから……、元から懐かなかったし……、だからわざと遠くの公園で遊んだ帰りに、置いて帰ったんざ……です」
チラチラと定宗さんを見ながら言うけれども、定宗さんは厚川さんを見ようとはしません。
お兄さんが苦々しい顔をして、厚川さんを見つめました。
「だって! 血統書付きのフランポワーズちゅわんは、私が買ってきたドレスも、リボンも喜んでしてくれるのよ! ベッドだって一緒に眠るわ。
でもヴィクトリアーヌちゅわんは、ドレスもリボンも嫌がるし、餌代はいっぱいかかるし……」
「……」
「犬と猫では習性が違います。では、何で今更、定宗さんを探すんです?」
お兄さんは、必死で感情を抑えてそう言いました。