202号室の、お兄さん☆【完】
……もし、定宗さんが、お兄さんを見つけた『あの日』、
捨てられた自分と、お兄さんが重なってしまっていたのならば。
私は……私は、身勝手な言動で傷つけた人を許せません。
た、確かに望んだ通りに育たなくても、望んだ通りに全て上手く行かなくても、
愛情が欲しい子どもを、傷つけないで。
子どもの視野はまだ狭くて、
親が世界の中心なのだから。
それは、
私も、
お兄さんも、
定宗さんも、同じなんです。
「すみません。マダム。定宗さんは貴女にお返しできません」
お兄さんは、ゆっくり、やんわり、そして寂しそうに言った。
「貧乏な僕より、貴女との生活の方が定宗さんは良いのかもしれません。けれど……僕と定宗さんは20年、ずっと側にいました。だから、僕の家族を貴女に売る事はできません」
「……っ」
「てなワケで、10万みたいな端金じゃ依頼は受けられなくなったな。フランポワーズちゅわんを大切にしてやって下さい」
そう言って、岳理さんが厚川さんと店を出た。
猫違いなのか、本人なのか分かりませんが、
定宗さんは最後まで去っていく厚川さんを見る事はなく、お兄さんの腕の中に居ました。