202号室の、お兄さん☆【完】
ふりふりと、定宗さんの尻尾が揺れていました。

風になびくように、一定に。


「定宗……さん」

私がそう呼ぶと、初めて定宗さんが私の方へやってきてくれました。


私が恐る恐る、定宗さんを抱き締めても、抵抗しませんでした。


「定宗さん……、好きです。
私、定宗さんが好きです……」
ずっしりと重くて、抱き締めたら尻餅をついてしまいましたが、私は定宗さんが大好きです。
低重音の鳴き声も、
睨みを凄ませる目つきも、
大きくてずっしりしたお腹も、
お兄さんを見守る優しさも、
猫達に慕われる、大きな心も、

全部、全部好きです。


今の定宗さんが一番好きです。



「好きです……。ずっとずっと好きです」

ポロポロと溢れ出した涙は、

悲しい悲しい現実の、涙。


子猫だった定宗さんを、想像して溢れ出した涙。


考えたくなかったけれども、
これは現実だったんだね。



「私も、……私も、補欠入学するような期待を裏切る私も、要らなかったんですよね」


そう。逃げないで直面した。

私は見捨てられた、ヴィクトリアーヌだったんだって。
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