202号室の、お兄さん☆【完】
「……ですよね。記憶が美化されたり、願望を過去と混同させてしまっているだけかもですよね」
「そんな事ないですよ! お兄さんの舌は確かですよ、だって料理の腕は一流ですもん! きっとお母さんがホットケーキが上手だったんですよ」
みるみるうちにしょんぼりしていくお兄さんに本音をぶつけると、少しだけ微笑んでくれました。
「皇汰だって、お母さんの苺ミルクセーキ覚えてるでしょ? お兄さんの記憶はまだ曖昧だけど、ヒントから少しずつ思い出す事もあるから、否定的な事は避けて言ってね」
そう皇汰に言うと、ごめんなさい、と可愛らしく舌を出して謝ってくれた。
しんみりならないように配慮されている皇汰の謝り方はやはり高度なテクニックだと思う。
「でも、手作りバターって本当に美味しいですね。このバターは『お袋の味』には関係無いですか?」
熱々のホットケーキの上を踊るバターは、本当にツヤツヤしていて美味しそうです。
ホットケーキミックスも、甘すぎず高級な匂いでとても美味しいです。
「バターは無いけれど、このチョコとホットケーキは何故か知っているような……?」
そう言うと、千景ちゃんが申し訳なさそうに挙手をした。
「ごめん、多分これは『お袋の味』じゃないわ」
とそう言った。