202号室の、お兄さん☆【完】
「もーぉ。おいで、な・る・み・さ・ん」
チラリと服の胸元を引っ張り、谷間アピールをする千景ちゃんと、彼氏でもない癖に慌てて隠す皇汰は漫才みたいでした。
……けれど皆さんにからかわれ、揉みくちゃにされ、いじられながらも、――お兄さんはとても楽しそうでした。
――そして、その輪の中に私も自然と入っている事がとても嬉しく、私に勇気をくれます。
父と離れてから経験した事、感じた事は、全て私だけのものだから。
この手作りバターだって、あのまま希望大学に受かっていたら一生経験なんて出来ず、作り方なんて知らなかったんです。
「おい、これも食え」
おにぎりと飲み物と、鮎の唐揚げを持って現れた、フリフリエプロンの主は、さっと立ち上がり、バタバタとしています。
が、
ガシッ
「…………」
「…………」
「……何?」
「……い、いえ、別に」
慌てて、エプロンを掴んでしまいました。
「『別に』、なら離せよ」
いつも通りの無表情な反応なのに、なんだか突き放された気分で、
――不安になりました。
だから、は……離したくありません。
「却下です!」
「……っち」
持っていたおにぎり達を、お盆ごとテーブルに置いて、溜め息を吐きました。