202号室の、お兄さん☆【完】

この待つ時間が、私は一番嫌いです。
過去の嫌な言葉ばかり思い出して、父をどんどん嫌な人のように魅せてくる……。


良い事が思い出せれないから。

人って、嫌な記憶ばかり鮮やかに思い出すんですね。

――まるで昨日の事のように。

揺らいでいる珈琲を見つめてハッとした。

あ……、あった。

一番最初の昔の記憶。


父が、私に眼鏡を買ってくれた日。




『私に似て、みかどは勉強熱心だな』


そう言って、頭を撫でてくれたこと。


でも、簡単に忘れてたんだ。





「待たせたな」


「!!」



珈琲を見つめていた顔を慌ててあげると、



スーツ姿の父が立っていました。



酷く疲れた顔で向かいに座り、さっきの店員さんに珈琲を頼みました。


「……」

「これに生活費を振り込むから」

父が差し出したのは、私名義のカードと通帳。
震えながら珈琲を置くと、テーブルの上から通帳を滑らせ珈琲の横に置いた。

その通帳を受け取らずに見つめていたら、父は椅子にもたれかかり、こう言った。


「皇汰は元気か?」



 
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