202号室の、お兄さん☆【完】
いつも通りの父のおかげで、緊張していた私は、ゆっくり笑う事ができました。
「――何を笑っている」
眉を少し動かし、不快そうな父に、私は微笑んだまま伝えました。
「目の前に1ヶ月ぶりに会う私が居るのに、第一声が皇汰の事だから」
おかげで、
何も期待せずに済むので有り難いです。
「お前は」
「分かっています。お父さんが皇汰だけを大切にしていること。
私、ちゃんと分かってましたよ」
そう言うと、通帳を手に取り鞄に仕舞いました。
「学費は甘えさせて頂きますが、生活費はちゃんと返します」
「バイトなら辞めなさい。学生時代は勉強だけに集中しなさい」
運ばれてきた珈琲に砂糖を入れながら、此方を見る事もなくそう言われ、私は首を振った。
「その事なのですが、お願いがあります」
「……何だ」
トントンとテーブルを指で叩いて、父は苛立った様子でしたが、私は焦る事なく、父の顔を見ました。
その顔はまだ私を一度も見ていませんが。
「就職が決まるまで、連絡をとらないで欲しいんです」