202号室の、お兄さん☆【完】
孔礼寺の階段下まで来ると、岳理さんのお父さんは腕時計を確認しました。
「あ、あの、岳理さんのお父さん!」
私がそう言うと、岳理さんに良く似た感情が読めない表情で言った。
「岳理パパって呼んで」
「ええ!?」
「それか、玄理(げんり)さん。百歩譲って住職さんでも良いけどねー」
そう雰囲気を和らげようとしてくれるのが、岳理さんと良く似ていて、優しいと思いました。
「玄理、さんですね」
私がそう呼ぶと、目を細めて微笑み、すぐに真面目な顔になって、夜空を見上げました。
「一つ……」
そう言った後に、此方に向き直った。
「一つ、老いぼれの昔話に付き合ってくれまいか?」
「え、あ、私で宜しければ……」
そう言うと、玄理さんはゆっくり階段を登りはじめました。
「岳理と鳴海くんの学生時代の話、をね」
優しく慈愛に満ちた眼差しで、
ゆっくりとそう告げると私に言いました。
「鳴海くんの魔法が溶けるまでまだ少し時間があるからね」
そう言ってまた1つ階段を登ったので、私も1つ遅れで登りました。
満月の光と淡い電灯で、私と玄理さんの影は長く伸び、階段に映っていました。