202号室の、お兄さん☆【完】
俯く新聞の人を、退屈そうにおじさんは見た。
「君が直接、鳴海んに渡したかったのかい?」
「……」
新聞の人は首を激しく左右に振ったが、目は否定してなかった。
泣き出しそうに、辛そうな瞳。
私と皇汰は再び蚊帳の外になり、立ち尽くしていると、後ろから千景さんの声がした。
「駄目って言ってるじゃない、あんた達!」
もこもこの黄色いワンピースの千景さんが、仁王立ちで睨んでいる。
「葉瀬川さん、この人に頼み事しないでよ。
岳理さんも、おばあちゃんに来ないでって言われてるんでしょ?」
あ、更に蚊帳の外みたいです。私と皇汰には意味が分かりません。
「鳴海さん、貴方を思い出したら、フラッシュバック起こしちゃうかもなんでしょ?」
「だったら、楠木教授の子どもが隣って良いのか!?」
「――どういう事?」
新聞の人と、千景さんが睨み合うが、ある言葉に私も皇汰も、言葉を失った。
何で、この人は、お父さんの事を知っているの……?
「探偵を舐めるな。調べれば分かる」
「鳴海んは、楠木教授に子どもがいるの、知らないよ?」
おじさんはそう、ぽつりと言うと、新聞の人の肩を叩いた。
「記憶喪失を、侮っては駄目だよ。いいから、もう帰りなさい」