202号室の、お兄さん☆【完】
そう言うと、2人はじゃれあいながらも、手を振ってくれました。
階段を玄理さんと降りながら、他愛もない話を降られても、私はなかなか頭に入って来ないで、笑って誤魔化すしかできませんでした。
あの日、ただ一目見たくて登った階段。
ずっと抱きしめて抱きしめて抱きしめて、離してくれなかったあの腕。
くしゃみをした横顔。
お風呂上がりで珍しく煙草の匂いもしませんでした。
……大切な、大切な思い出ですが、此処に置いていきます。
私にはもう必要が無くなったので。
お兄さんの温もりがあるから。
「鳴海くんが好きなんだろうね」
玄理さんは階段を降り立った後、後ろを見上げて言いました。
「私も岳理さんも、お兄さんが大好きなんです」
そうです。
気持ちは一緒。
思いは一緒。
そしてこれからも側に居てくれる。
私はなんて幸せなんでしょうか。
「みかどちゃん!」
バイクに跨がろうとした時、パジャマ姿のお兄さんが走って来ました。
「これ、岳理くんが渡してほしいって」
そう言って渡されたのは、
花言葉の本でした。
「おやすみなさい。みかどちゃん。また明日、ですね」
そう言って微笑んでくれたお兄さんに微笑み返し、私は花忘荘へと帰って行きました。